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植物考古学 土器種実・昆虫圧痕

 土器の表面や断面には、土器作りの際に粘土に混ざった種実や昆虫の痕跡がくぼみ(圧痕)として残っている。この圧痕にシリコーンゴムを入れて、型を取り、走査型電子顕微鏡で観察すると、種実や昆虫の種類を決めることができる。この方法は「レプリカ法」と呼ばれている。

 レプリカ法で居家以岩陰遺跡から出土した土器(第1次〜第4次調査)の圧痕を調べた結果、縄文時代早期の土器破片1743点には、マメ類のダイズ属やアズキ亜属、漿果のブドウ属など7点の種実圧痕(圧痕率0.4%)が見いだされ、前期前半の土器破片856点には、栽培植物のエゴマと同じサイズのシソ属や液果のニワトコなど3点(圧痕率0.5%)の種実圧痕が見いだされた。これらはいずれも食用可能な種実であり、土器作りの場に存在していて粘土に混ざっていたことを示している。

 縄文時代早期中葉(沈線文系)の土器に見いだされたダイズ属種子の圧痕は残存長7.53mm、幅4.87mm、厚さ3.52mmであった。ダイズの祖先野生種であるツルマメの平均的なサイズの長さ4mm程度よりは大きいが、最大長(10mm)よりは小さかった。粘土に取り込まれた種実は粘土中の水分を含んで膨張し、土器の焼成時には収縮するため、生の時点の正確な大きさは分からないが、少なくとも早期中葉にはマメ類の利用が始まっていたことを示す重要な情報となった。

 縄文時代前期前半の土器から見いだされたニワトコの圧痕は、食用可能な果実の部分ではなく、内部の核が2点近接して発見された。これは果実の果汁を絞った滓である核が何らかの要因で粘土に混入した可能性が考えられる。

 さらに縄文時代前期の終わり頃の土器からは、ゾウムシ科の可能性がある甲虫の圧痕が得られた。この甲虫の種類が分かればその生息域から、土器作りの場所の環境や昆虫食の可能性が推定できる。

 このように、土器にはさまざまな情報が眠っており、レプリカ法は生の植物や昆虫が残りにくい台地上の遺跡でも種実や昆虫の検討を可能にし、土器の時期が判別されれば、時期を確定できる非常に有効な方法と言える。

佐々木 由香

出土土器の圧痕レプリカと現生種実(上段左・中央:ダイズ属種子の圧痕レプリカ、左:現生ツルマメ種子、中段左:ニワトコ核の圧痕レプリカ、中段右:現生ニワトコ核、下段:不明甲虫の圧痕レプリカ)
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